柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『北の桜守』小百合様(73歳)に30歳が「いい女だな」は、いくらなんでも。ジェロントフィリア? ボケ老人にしか見えないし! (柳下毅一郎)

公式サイトより

北の桜守

監督 滝田洋二郎
脚本 那須真千子
舞台演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
撮影監督 浜田毅
音楽 小椋佳、星勝、海田庄吾
出演 吉永小百合、堺雅人、岸部一徳、高島礼子、永島敏行、安田顕、野間口徹、毎熊克哉、菅原大吉、螢雪次朗、笑福亭鶴瓶、中村雅俊、阿部寛、佐藤浩市

 

 

face 吉永小百合百二十本目の出演作だそうである。『北の零年』、『北のカナリアたち』に続く“北の三部作”の最終章だが内容的な関連はない。

というかそもそもこのタイトルの意味がわからない。というか映画の内容自体がわからない。これ、いったい何を訴えたい映画だったんだろうか。「失われた記憶へ向かう親子の旅の果てに…」っていうんだから、たぶん小百合様の記憶の話なんでしょうが、映画見るかぎりあきらかにこの人ボケかけてるし、そもそも記憶の欠落部分に謎なんか何もないんで、いったい何を主張したいのかまったくわからないのである。どの部分を見せたくてこんな映画を作ったのか。どういうことかと言いますと……

 

 

 

映画がはじまると一九四五年の樺太。小さな木で桜の花が咲いている。江連てつ(吉永小百合)が種から育ててついに咲いた桜の木である。ところがそこで日本の敗戦の報が入る、夫徳次郎(阿部寛)は妻と二人の子を先に日本に帰そうとする。ってとうとう阿部寛(53歳)、小百合様(73歳)と結婚しちゃったよ!(ふしぎな岬の物語では恋い焦がれる役だった)なおこの映画における年齢問題はさらにめちゃくちゃなことになっており、このあと佐藤浩市(57歳)が小百合様に求婚したり、その相棒である毎熊克哉(30歳)が小百合様を見て「いい女だな。やっちゃいましょうよ!」けしかけるとか、いったいどう考えたらいいのかさっぱりわからない。いくらなんでも「いい女だな」はないと思うんだが。ジェロントフィリアかな? そういうわけでもはや何歳と考えたらいいのかさっぱりわからない小百合様。

そこから鉄道と船で日本を目指すのだが、途中脈絡もなく、法則らしいものもないまま、一部シーンが舞台になる(演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)。看護婦たちが集団自決をはかるシーンとか、そこだけ舞台の上で演じられる。引揚船とか樺太の駅とかセットを作れないシーンを舞台にして逃げてるのかな……と思ったが、後半ではただの病院のシーンも舞台にしてたりして理由がわからない。まあ気分ですかね。そんなわけで無事帰ってくるかと思いきや……(暗転)

話は飛んで一九七一年、札幌。狸小路にアメリカ発のコンビニエンス・ストア「ミネソタ24」の日本一号店がオープンする。一九七一年に二十四時間営業のコンビニなんてあるのかよ! と思ったが実際にセイフーマート一号店が札幌にオープンしていたとのこと(ただし二四時間営業はさすがにやりすぎ)。しかしなぜミネソタなのか!? 日本支社を率いるのは二十四時間のブラック労働を強要する江連修二郎(堺雅人)。いつも薄笑いを浮かべている不愉快な男はてつの次男坊である。ある日故郷網走から連絡があり、十年ぶりに故郷へ戻る。すると網走の掘っ立て小屋で定食屋をやっている(戦後の不法占拠バラックみたいなものを意図しているとおぼしいのだが、海辺に一軒だけぽつんと立ってるので、そもそも客が来るのかどうかすら謎)母てつが、鏡を見て「あらひさしぶりねえ……」とか一人芝居をはじめるほど精神がアレになっていることを知り、札幌に連れ帰ることにする。

アメリカから連れ帰ってきた新婚の妻マリ(篠原涼子)は、いきなり初めて会った義母の世話を押し付けられて困惑気味である。デパートで服を買えば試着のときに靴を間違えて帰ってくるは、公園に散歩に行けばいきなり桜の木に「大丈夫?」と話しかけて撫でさすりはじめるは、でさすがにボケを疑わざるを得ないレベル。病院で検査を受けさせると医者は「アルツハイマー病ではありません」と断言(一九七一年に「アルツハイマー」なんて言ってただろうか?)、どうやら何か忘れたいことがあってそれが原因なのだと示唆する。しかし、これどう見てもボケ老人の行動だよな。

そもそも「忘れたいこと」が……って話だけどさ、何やら過去に悲劇があったことが暗示されていて、ここまで次男と母の二人家族、堺雅人が新婚の妻に向かって「ぼくと母さんのことは絶対に誰にもわからないんだ!」と圧倒的拒絶をつきつけるさまを見せられれば、そりゃどんな馬鹿でも長兄と父親は死んだのだなと思う。で、実際それが「失われた記憶」だっていうんだから恐れ入る。せめて樺太のパートを入れなければここまで白痴なストーリーにはならなかったのに。

 

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