柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ゆずりは』このところ葬儀業界をテーマにした映画が多いような。高齢化社会、葬儀屋が社会的存在感を増している……ありていに言えば儲かっているという (柳下毅一郎)

公式サイトより

ゆずりは

監督 加門幾生
原作 新谷亜貴子
脚本 吉田順、久保田唱
撮影 吉澤和晃
音楽 遠藤浩二
出演 滝川広志、柾木玲弥、勝部演之、原田佳奈、高林由紀子、大和田紗希、島かおり、三谷悦代、小林博

 

「コロッケが本名滝川広志として臨む初主演作。「死」と向き合う現場で、命の尊さと大切な人への思いを描く、せつなくもあたたかい涙あふれる映画の誕生」だそうである。これを聞いて「なんだかなあ」と思わなかった者は幸いである。天国はあなたのものである。

せんだっても『おみおくり』なんて映画もあって、どうもこのところ葬儀業界をテーマにした映画が多いような気がしているのである。やはり高齢化社会において、これまで以上に葬儀屋が社会的存在感を増しているという……ありていに言えば儲かっているという……側面があるのかもしれない。本作は千葉県八千代市に選べるタイプの違う四つの斎場を展開する葬儀社安宅の全面協力で作られる八千代映画。葬儀場面の撮影はすべて安宅所持の斎場でおこなわれるなど、まるで安宅のPR映画という様相。安宅は本作の公式パートナーとして協力しているらしい。

 

 

さて、本日の葬儀、葬儀社社員の若手女性が流麗な口調で司会をつとめているが、さっそくトラブルが発生する。お経をあげるはずの坊さんが控室で倒れたのだ。

「お寺さんが体調不良でお倒れになりました。糖尿病だそうです!」
「じゃあ、なんでも甘いジュースをお持ちして」

 慌てず騒がずインカムで指示を出すと、ハンドサインでベテランに代われ、三分伸ばしての連絡をおくるコロッケこと水島部長(滝川広志)。これ、コロッケが有能社員であることを伝えるためのわかりすいアピールなんで!

で、さっそく司会をかわった社長(勝部演之)が「ゆずりはというのは常緑樹ですが、新しい葉が育ってはじめて前の葉が枯れ落ちる。いわば見送る人と見送られる人という関係で……」とこの物語にちなんだちょっといい話をしているとコロッケは控室に急行。オレンジジュースを飲ませて低血糖発作から回復すると(コロッケは「甘いジュースならなんでも」って言ってたけど、カロリーゼロとかだと意味ないからな!)、斎場に戻ったコロッケはオーケーのハンドサインを送り

「ではお寺さんがご入場いたします。みなさま合掌でお迎えください」

 といって坊主が入ってくる。これ、もちろん実際の葬儀では「ナントカ寺のご住職さま」と呼ぶのだろうが、「お寺さん」という宗派にも、あえていうなら宗教にも無関心な呼び名は示唆的である。実際、今現在、確固たる意志で宗教的葬儀をやろうとする人は稀なのではないか。こうした葬儀場では葬儀社員が毎度紋切り型の司会をし、契約した坊主がお経をあげるということがくりかえされているのではないか。毎回全力で列席者を泣かせにかかる葬儀社員のいい話も含め、これが現代の非宗教的な宗教儀式なのかと思わされた。

さて、そんなわけで無事トラブルも切り抜けた水島、会社に戻ると社長から呼び出される。

「実は今度新しく人を取ろうと思うのだが、水島くんにまかせるんでいいのを選んでくれたまえ」

 面接では「ちーっす!」と言って入ってくるのが礼儀のれの字も知らないような青年高梨(柾木玲弥)、志望動機を効かれると飼っていたオカメインコが死んだときの話をはじめて勝手に号泣する。社員一同呆れかえって即座に不合格を訴えるが、なぜか水島は彼に思い入れ、社長にも訴えて彼を採用してもらう。

 

443f2910ab9081e6c5fb7aa8c00ee84d2

(残り 2084文字/全文: 3565文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

tags: ご当地映画 コロッケ 三谷悦代 久保田唱 八千代市 加門幾生 勝部演之 千葉県 原田佳奈 吉澤和晃 吉田順 大和田紗希 小林博 島かおり 新谷亜貴子 柾木玲弥 滝川広志 葬儀社安宅 遠藤浩二 高林由紀子

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ