柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『えちてつ物語~わたし、故郷に帰ってきました。』 ここまで不愉快な主人公いるか! 福井の美しい風土を食い物にする吉本芸人への怒りばかりが……

公式サイトより

 

えちてつ物語~わたし、故郷に帰ってきました。

監督 児玉宜久
脚本 児玉宜久、村川康敏
撮影 岸本正人
出演 横澤夏子、萩原みのり、山崎銀之丞、笹野高史、松原智恵子、緒形直人、辻本祐樹、坂本三佳、安川まり

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えちぜん鉄道は2003年開業、福井と勝山、三国港を結ぶローカル鉄道である。もともとは京福電鉄の越前本線・三国芦原線として運行されていたが、2000年から2001年にかけて二度も列車の正面衝突事故を起こしたことで国土交通省から運行停止を命じられる(!)。そこで地域の足が欲しかった福井市などの出資で第三セクターに生まれ変わったというわけである。ちなみに復活してからは車両に「アテンダント」として女性車掌が乗車し、もろもろサービスにつとめるようになったという。本作はそのアテンダントをめざす女性が主人公、ということで理想的なローカルムービーになってもよかったはずなのだが、実にこの主人公があまたのローカルムービーの「都会で挫折して故郷に帰ってきました」ヒロイン中でも最悪と言っていいぐらいの甘ったれで、ここまで不愉快な主人公いるか! というぐらい最初から最後までムカムカしながら見ていたのだった。本当、最悪ですよ。あ、雪山がすぐ後ろに迫る勝山の町並みはたいへん美しく、行ってみたいと思える風景は撮れていた。

 

 

「意外とおおきいねー」

 福井駅前の恐竜フィギュアを見て声をあげて喜んでいるのは山咲いづみ(横澤夏子)。十年前、人を笑わせて幸せにしたいとお笑いタレントをめざして家を飛び出したまま音信不通だったが、同級生の結婚式に招かれて帰ってきたのだった。またこのパターンか……ちなみに横澤夏子本人は吉本興業所属のお笑いタレントだそうですが新潟出身で福井とは無関係の模様。なんでこんな映画出てるんですかね……結婚式では「新婦の友人であるお笑いタレントに一席おねがいします!」といきなり無茶ぶりされて、「フクイサウルスにプロポーズするフクイラプトル」というネタをはじめて場内が冷え切り、しまいに我慢できなくなった恐竜少年が乱入して「違うんだよな。フクイサウルスの足はこう、声はこう」とダメ出しされてしまうていたらく。そう、いづみは実はお笑いに行き詰まりを感じ、結婚式への出席を言い訳に故郷に逃げてきたのだった。お笑いコンビの相方からきた「本気でお笑いやめる気?」というLINEメールも既読スルーで「返事くらいくれよ!」と追い打ちされている。で、勝山に帰ってくると実家の手打ち蕎麦屋に居候。店を継いでいる兄(緒形直人)は「家に帰ってきたならまずやることがあるだろう!」と叱責するのだが、これは理由があって、実は家出のようにして飛び出したあと、父の葬式にも帰ってこなかったのである。ここらへんですでにこの女どうなの?という気がしてくるわけだが、まだまだ話ははじまったばかり。

翌日、結婚式会場でつまずいた拍子にワインをこぼし、さらにハンカチまで借りた男性に謝りに行くことにしたいづみ。結婚式の席次を見て相手が越智老人だと知り、勤務先のえちぜん鉄道に出かける。「越智さんっていうご老人いらっしゃいますか?」と尋ねると、相手はなんと社長(笹野高史)と判明!

「結婚式ではたいへん感心しました。無茶振りされてもやってしまう度胸と明るさ、さすがですねえ」

 って褒められてんのかなんなのか。

「そうだ! その度胸と明るさで、うちのアテンダントをやってもらえませんか?」

 いやそれはいくらなんでも失礼すぎるのでは。一応彼女はまだ「東京で活躍しているお笑いタレント」という体裁なんだし、なんでたまたま会っただけの人間をスカウトできると思うのか。だが当然ながらこの女はすぐにオファーにとびつき、マネージャーから「試しに相方を変えてピン芸人とコンビを組んでみないか」と言われて悩んでメールしてきた相方に

「いいと思う! 応援するよ!」

 と返事(これ、「せめて返事くれよ!」って言われたあとの初返事だからね。相方にしてみれば完全に見捨てられたとしか思えない冷たさ)。居候先の家に帰ると、兄に「えちぜん鉄道に就職決めてきたから」と告げる。唖然の兄。

「おまえ、お笑いに命かけてやってるんじゃなかったのかよ!」
「お兄ちゃんが思うほど甘いもんじゃないんだよ! 命なんかかけたってダメなものはダメなのよ!」

 なんだその開き直りは! この女、咎められても絶対に謝らないで、毎回逆ギレするんだからタチが悪い。そういうわけでお笑いの道をあっさり捨て、えちぜん鉄道のアテンダント修行をはじめるいづみである。同期入社は派手な化粧のギャル奈緒(萩原みのり)と理系のメガネっこ聡美(安川まり)。まあここで観客もいづみと一緒にえちぜん鉄道と沿線のあれこれについて学ぶことになる。ちなみにえち鉄のアテンダント、地元では人気の職種らしく、数年ぶりの募集でやっと合格した奈緒は、当然ながらデモシカでやってるいづみに批判的だ。

 

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