人生初の給料未払いと練習ボイコット。天野は駐在員の帰国ラッシュに巻き込まれながらもなんとかチケットを確保し、日本便に飛び乗った [天野純インタビュー(1) ]
【天野純選手インタビュー(第1回)】
インタビュー・文:藤井 雅彦
写真:本人提供
協力:横浜F・マリノス広報室
「自分の中に停滞感を感じている部分もある。行かないで後悔したくなかった。数年前に自分が感じていた成長速度ではないし、もう一皮むけたい」
そう言い残してベルギーへ旅立ったのが昨年の7月。
あれから10ヵ月の月日が流れ、天野純はマリノスに帰ってきた。
本意のタイミングではなかった。描いていた未来予想図ではなかった。マイペースな語り口は一切変わらなくても、言葉の端々に無念さがにじみ出ていた。
一昨日、電撃復帰を果たしたばかりのアマジュンが、ヨコハマ・エクスプレスの取材にすべてを語ってくれた。
開口一番の言葉が印象的だ。
「ベルギーでの生活はとにかく楽しかった」
天野が居を構えていたゲントは、ベルギー国内でブリュッセル、アントワープに次ぐ第3の都市として知られている。
木々が生い茂る美しい街並みに酔いしれ、散歩が日課になった。
「日本では散歩をするという習慣がなかったけれど、ゲントは街全体がめちゃくちゃ綺麗。昼間や夕方に、オシャレな街を散歩して優越感に浸った(笑)。ベルギーでプレーしている日本人みんな『ゲントが一番いい』と言うんだよね」
現地の人々も、助っ人として日本からやってきた天野を快く受け入れてくれた。日本では取り締まりの対象になりそうな、ちょっぴり荒い欧州式の運転に肝を冷やしたものの、すぐに慣れていった。
ファン・サポーターが気にかけていた言語というハードルも、持ち前のマイペースぶりで乗り越えていく。
「マリノスはもともとグローバルなチームだから、英語とかいろいろな言語が飛び交っていた。だから大きな戸惑いはなかった。サッカーで使う単語はある程度決まっているし、多少は勉強して行ったからね(笑)。ただジョークを言い合うことはできても、チームメイトと深い話をするのは難しかった。それがちょっと残念。あと簡単な日常会話も問題なかったけれど、自宅に宅配や郵便物が届いた時に、普段使わない単語が出てくると困った(笑)」
肝心要となるグラウンド上での葛藤や苦悩については次号に譲るが、冒頭の言葉通りに天野は総じてベルギーでの生活を謳歌していた。
雲行きが怪しくなってきたのは、年が明ける前のこと。
ロケレンは中国を拠点とする投資グループとの交渉がすでに成立しており、年明けには資本が注入されるはずだった。しかし、その頃から給料明細が渡されなくなり、銀行口座に入金されるはずの給料、さらには勝利給も振り込まれなくなった。
そして、忍び寄る新型コロナウイルスの影――。
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